「列に」



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久しぶりに詩をご紹介したいと思います。

流れてくる音楽を耳にして 眠っていた記憶が甦るように。
ふわりと漂う香りを嗅いで 懐かしい光景が立ち上がるように。
ある場面を目にして 昔読んだ詩が喚起されることがあります。

この情景を見たとき、私の好きなこの詩が鮮明に浮かんできました。
(この場面自体は、列に並んでいるわけではなく、ジョーズと呼ばれるハワイの高波を見ている人たちなんですが)
では どうぞ。





列に 

長谷川 龍生


この列に ならばないと
生きていく権利を失ってしまいますよ
と 列の中の 女の人が言った

紐育(ニューヨーク)の下町で 失業者の列を見た
いつか あの後尾(しんがり)に吸いつけられるような気がする
郵便局で 小事 速事の人々がならんでいる
劇場 馬券売場 長い旅をいくバス始発駅
列は 少しずつ 動いている
列がくずれ乱れたとき 割り込みがあった
後れをとった人々が じっと何かを噛みしめている

巴里(パリ)サン・ラザール駅で 両替の列を見ている
雨ぞ降る 日曜美術館のながいながい傘の列
モスクワの 牛肉をもとめる執拗な目の列
英雄の遺体を拝察しようと 静かに動く数列
列にならび 加わりながら
時をうまく使っている人々 夢を見つめている人々
時を指の間から失っていく人々がいる

近い国 遠い国の 難民収容所で
一皿のスープをもらう列が カメラアイを見ている
北京では 自転車の乱列 学生の旗が動く
地中から 整然とした軍兵 文官 馬がせり上がった

この列にならばないと
生きていく権利を失ってしまいますよ
と 列の中の 鋭い声をきいた

列に反撥する 道化を装いながら
日本では きょうもささやかな列にならぶ
幕切れ近いスーパーの列に こっそりと
宝くじの当たりそうな場所に ひっそりと
列に反撥しながら 列は 一歩一歩動いている

旅券はもっている 生きていくという旅券
他者を押しのけはしない 順をゆずりたいぐらいだ
地の果てに向かっていく大勢の列
空の果てに幸せを把もうとする数条の列
石柱の列に 氷結してしまいたくはない
瞳とじれば 地上の 總列が
萌える緑の林立に変わろうとする だが
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by kyono_soramoyo | 2010-10-07 02:29 | 詩 / Poems

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